CHAPTER Vol.12 【EXPRESS】

渡邉 香子 (25)

Cnot flower. フローリスト

一番大切にしていることはとにかく心を込めて一生懸命やろうということ。 人に丁寧に、お花に丁寧に、心を込めて目の前のことに取り組む。

CHAPTER

今を生きる若者たちの
生き方と明るい未来の話を

CHAPTERは、EAT、LISTEN、EXPRESS、THINK、MAKEをフィールドに、 意思を持ち活動する20代の若者たちに焦点を当て、一人ひとりのストーリーを深く丁寧に掘り下げることで、 多様な価値観や生き方の発信を目的とするメディアです。

●出身地はどちらですか?
千葉県習八街市です。

●幼少期はどのように過ごされていましたか?
小さい時からよく兄と一緒に遊んでいました。兄を追いかけ回していて、アクティブに外へ遊びに行ってましたね。竹藪に入ってタケノコ採りをしたり、常に自然の中で遊んでいたのを覚えています。

●ご両親はどのようなお仕事をされていたのですか?
父はIT関係の会社の代表を、母は事務をやっていました。

●ご両親から受けた影響はありますか?
父からよく言われたのは、「世の中は常に人対人でできているから人を大切にしなさい」ということ。基本的なおもいやりを大切にしています。人にされて嫌なことは自分からはしないし、人にされて嬉しいことは率先して自分からしようと心がけています。何か新しいことに挑戦する度に父からの助言を思い出し、いつも背中を押されるような気持ちになります。

●何か新しいことに挑戦することは昔からよくあったのでしょうか?
割と目立ちたがりというか、変わったことをやりたいという気持ちは常にあったかもしれないです。今までもこれと決めたらすぐに行動へ移していたのですが、今回わたしがフリーランスで活動し始めたことも前職を辞めてから両親に伝えていて。すごく驚いていましたが、自分が楽しいと思えるならいいんじゃない、と応援してくれています。


お花を通してのコミュニケーションを見て、町のお花屋さんの素敵さに衝撃を受けた。


●学生生活はどうでしたか?
中学高校時代は熱心にバレーボールに打ち込んでいました。兄の影響で中学からバレーボールを始め、中高合わせて6年間ずっと取り組んでいました。高校時代は恋愛とSNS禁止のストイックな環境でバレーをしていて、休みも年末年始しかないような部活でした。バレーと向き合っていたらあっという間に高校生活が終わってしまった感じです。卒業後の進路を初めて考えたのは引退後の高校3年の春。当時は色んな大学と学部について調べていたのですが、答えがない学問ということに魅力を感じ、哲学科に進学することを決めました。

●学生時代はどのようなことを学びましたか?
哲学も面白かったのですが、学生時代はアルバイトにも多くの時間を費やしていました。学生時代は2つのお花屋さんで働いていて、最初にお世話になった規模の大きいお花屋さんでは、店舗運営の大変さを身を持って感じました。特に生活リズムや人材不足など、労働環境の厳しさを目の当たりにしましたね。その次にアルバイトをしていたお花屋さんは個人経営の小さなお花屋さんだったのですが、最初に働いていたところとは対照的で、お花が生活の一部になっているというか、本当に好きでやっているんだろうなというご夫婦が営んでいて。より丁寧な接客やサービス、お花を通してのコミュニケーションを見て、町のお花屋さんってすごく素敵だなと衝撃を受けたのを覚えています。

●学生時代は何を目指していましたか?
2つのお花屋さんで働いた経験から、将来お花屋さんになろうと思った時期もあったのですが、進路に悩んでいるときに私のことを幼少期からよく知る友人から「香子は人と人を繋げる力がある」と言われたんです。友人の言葉に背中を押され、それからお花屋さんは何歳からでも挑戦できるかもしれないと思い、人材業界のある企業に就職しました。


お花のおかげで私自身がいろいろと助けられた部分もあり、友人たちのなかで「花と言えば、香子だよね」と思ってもらえるよう本気で挑戦してみようと思った。


●実際に人材業界で働いてみてどうでしたか?
すごく楽しかったです。営業職で入ったのですが、求人広告を作成したり、その後のフォローから定着まで一連の流れを全て一人で担当していました。多くの会社は営業、広告作成、フォローアップとそれぞれの担当が分かれているのが普通だと思うのですが、私のいた会社ではそれらを一人の担当者が担うんです。出会いのきっかけから、長い繋がりまでを一気通貫で担当できるというのが魅力的でした。その会社では約1年2カ月働きました。

●次はどんな仕事に就かれたのでしょうか?
人材会社に所属していた期間も趣味でお花は続けていました。ブーケづくりやアレンジメントのワークショップに月1で通っていたんです。作ったお花を自分で持って帰るというよりは、友人たちの特別な日にそれをプレゼントしていました。アレンジメントを作ることは凄く楽しかったですし、友人が喜んでくれることも嬉しかったのですが、何故か自分で納得いかないものをプレゼントしているような感覚があったんです。アレンジメントが上手くいかなかったり、友人がお花について詳しく聞いてくると上手に答えられなかったり、そういう悔しさが積もったときにやっぱり仕事として取り組んで本気でやろうと思い、あるお花屋さんへ転職をしました。

●転職する際の不安や葛藤はありましたか?
たくさんありましたね。それこそ経済面でのリスクやプライベートの時間のリズムが大きく変わるなど、色々と失うものが多かったです。あとはお花屋さんって技術職なので、当時はすごく高いハードルでしたし、大きなプレッシャーがありました。

●その葛藤や不安を乗り越えられた要因は何だったのでしょうか?
友人たちの言葉が大きかったです。彼ら彼女たちが私の居場所はここだよと言ってくれているような気がして。お花のおかげで私自身がいろいろと助けられた部分もあったので、友人たちのなかで「花と言えば、香子だよね」と思ってもらえるよう本気で挑戦してみようと思いました。あとは行動するだけだったので、早速好きだったお花屋さんへ応募しました。


「とりあえずやってみたら」という一言に力強く背中を押された気がして。そこからCnot Flower.として活動できるよう粛々と準備を進めてきた。


●いくつか気になるお花屋さんに狙いをつけていたのでしょうか?
応募したお花屋さん以外、他には全く見ていなかったですね(笑)。そのお花屋さんのインスタグラムはずっとチェックしていて、ある日タイミングよくスタッフの募集がかかったんです。すぐお店に遊びに行って、そこで働く先輩方の雰囲気や彼らが丁寧に創り出す空気感に衝撃を受けました。この人たちと一緒に働きたい、と強く思いましたね。

●どのくらいの期間、そのお花屋さんで働いたのでしょうか?
正社員として約1年間そこでお世話になりましたが、この1年はあっという間に過ぎました。でも本当に楽しかったです。一般的なお花屋さんは商品を考える人、売る人、仕入れる人、数字を管理する人、と企業のようにそれぞれ担当部門があると思うのですが、このお花屋さんは全てをみんなでやっていました。例えば、お花を仕入れるところから始まり、商品つくりながら、撮影をし、SNS運用もする。それが凄く忙しくて大変な分、個人でできることの幅は広がりましたし、力もつきました。みんなと一緒にせっせと働いたからこそ、物凄く充実した1年でしたね。

●現在は”Cnot Flower.”として個人で活動していらっしゃいますが、独立する計画は以前から準備されていたのでしょうか?
いつかは自分でやりたいなという気持ちはあったのですが、屋号を掲げて活動しようと決めたのは本当に以前の職場を辞める2、3カ月前ですね(笑)。ある日、私のお姉ちゃんのような存在の方と将来について話していたんです。いつかは独立したいんだよねと相談したら、さらっと「とりあえずやってみたら」と言ってくれたんです。何故かその一言に力強く背中を押された気がして。タイミングを大事にしようと思い、そこからCnot Flower.として活動できるよう粛々と準備を進めていました。


最終的な目標は一つ前のお花屋さんに入ったときから変わっていなくて。”花屋で働きたい”と思う人たちを一人でも増やしたい。


●Cnot Flower.はこれからどのように活動していくのでしょうか?
近い将来の具体的な目標はまだないのですが、最終的な目標は一つ前のお花屋さんに入ったときから変わっていなくて。”花屋で働きたい”と思う人たちを一人でも増やしたいです。その背景として、私が一度お花屋さんになる夢を諦めたという事実が凄く悔しいことなんです。花を裏切ったような気持ちがして。それは学生時代から耳にしていた、お花屋さんの過酷な労働環境や経済面についての事実が影響しています。でも、もっと花は楽しいんだよと自分が誰よりもお花を楽しんでいる姿を見せていければ、少しずつ状況が変わっていくだろうと信じています。

●たしかに、お花に触れるハードルがもっと下がれば嬉しいですよね。
お花って難しそうだからという理由で、お仕事にしない方も多いと思います。でも全然そんなことなくて。もっとラフなものだよと伝えたい。だからこそ、Cnot Flower.はコンセプトを「会いに行く花屋」と謳って活動しています。店舗を持つことによって、会いに来てくれる機会を増やせるとも思うのですが、もっとお花をラフに触って楽しんでもらう機会を、場所を問わず色んな所で提供していきたいと思っています。

●香子さんにとってお花とはどういう存在ですか?
本当に自分の居場所だなと思っています。花があるからこそ、繋がりは増えていきますし、色んな場所でポップアップをやる機会にも恵まれています。花があるからこそ、私がわたしでいれる、と思っています。だからこそ責任を持って、お花の魅力を伝え続けていかなくてはいけないと強く感じています。


一番大切にしていることはとにかく心を込めて一生懸命やろうということ。 人に丁寧に、お花に丁寧に、心を込めて目の前のことに取り組む。


●今まで様々な業界を経て、最終的にお花屋さんを選んだと思うのですが、今感じる人生の学びは何でしょうか?
一番大切にしていることはとにかく心を込めて一生懸命やろうということ。人に丁寧に、お花に丁寧に、心を込めて目の前のことに取り組む。最近色んな人との繋がりができているなかで、尊敬するなと思う人たちはみんな全てのものに丁寧だなと感じています。父親の言葉を繰り返すと、私も全ての人に丁寧に接していきたいと強く感じています。

●将来の夢を教えてください。
ざっくり、有名なフローリストになりたいです(笑)。「花をお願いするならば、香子」と言われるようになりたい。香子は絶対に間違いがない、丁寧だからねと言われる人になりたいです。あといつか家庭を持った時に、家族に自慢できるようなフローリストになりたいですね。


Profile:渡邉 香子 Kako Watanabe

Cnot Flower. フローリスト

1997年生まれ千葉県出身。
2022年7月、「会いに行くフローリスト」として活動するCnot flower.を設立。お花の販売だけでなく、新たな出会いや日常生活の中にある発見のきっかけづくりを提案する。ギフトオーダーや会場装飾、ワークショップ、POP UPをメインに人と人、人とモノの結び目(Cnot)となれるよう活動中。

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Text : Hirotoshi Yamamoto
Interview : Gaku Sato

2022.08.25